オフィス移転を計画的にすべき理由とは?意外と検討されていない財務リスク

オフィス移転は、企業にとって重要な意思決定の一つです。新しい環境で働くことで、社員のモチベーションや生産性の向上、コミュニケーションの活性化など、様々なメリットが期待できます。しかし、オフィス移転には、多くの企業が見落としがちな財務リスクも存在します。

本記事では、オフィス移転を計画的に行うべき理由と、意外と検討されていない財務リスクについて詳しく解説します。

目次

「敷金」の負担による財務への影響

「敷金」の負担による財務への影響

オフィス移転において、意外と見落とされがちな財務リスクの中でも、特に注意が必要なのが敷金に関するリスクです。敷金は、賃貸借契約時に貸主に預ける保証金の性質をもつものであり、オフィスの賃貸料の数か月分から1年分に相当する高額な資金が必要となります。この敷金の負担が、企業の資金繰りに大きな影響を与える可能性があるのです。

特にオフィスの移転を考えるタイミングは「事業拡大」のタイミングが少なくありません。

事業拡大フェーズでの移転では、様々な支出が想定されます。

オフィス移転の敷金、移転費用、新しい事務用品の費用だけでなく、オフィス拡大による人件費増(採用費・福利厚生費)や移転に関する関連経費(取引先への通知、ホームページのリニューアルなど)など含めるとかなりの金額になります。

ここで注意しなければならないのは、その多くが「先払い」だということです。将来の売上を見込んだ先行的な支出になってしまうのです。

オフィスの適正賃料は、一般的には粗利(売上総利益)の20%以内といわれています。

極端な例ではありますが、粗利1億円の企業が年間賃料2,000万円のオフィスから、粗利2億の事業計画を前提に年間賃料4,000万円のオフィスに引っ越したとします。敷金が年間賃料と同額だとすると、差分の2,000万円の追加敷金が必要となります。

とはいっても現在の支払済みの敷金はほとんど戻ってこない場合も多いでしょうから、4,000万円全額が必要となることが多く、今の売上規模1億円から考えるとかなりの財務的な負担になります。

このように中小企業や成長段階にあるベンチャー企業では、敷金の調達が財務的な負担となるケースが少なくありません。
オフィス移転に伴う初期費用として、敷金だけでなく、内装工事費や引っ越し費用なども必要となります。これらの費用を一時的に捻出することが難しい企業では、オフィス移転そのものを断念せざるを得ない状況も考えられます。

ここで問題となるのが、敷金や他の費用を負担してまでオフィス移転を行うべきかどうかという点です。オフィス移転には、社員のモチベーション向上や生産性の改善、企業イメージの向上など、様々なメリットがあります。しかし、そのためにあまりに大きな財務的負担を強いられるのは、本末転倒とも言えるでしょう。

そのため、敷金の調達のために借り入れを行うことは、リスクが高いと言わざるを得ません。オフィス移転による収益向上や経費削減の効果が不確実な中で、借金を重ねることは、企業の財務健全性を損なう恐れがあるからです。

資金繰りに影響が少ないオフィス移転方法も

資金繰りに影響が少ないオフィス移転方法も

では、敷金の負担を抑えつつ、オフィス移転を実現するにはどうすればよいのでしょうか。ここで注目したいのが、オフィス形態の選択肢の多様化です。従来型の一般賃貸オフィスだけでなく、居抜きオフィスやサービスオフィス、コワーキングスペースなど、様々なオフィス形態が登場しています。これらのオフィス形態では、敷金の負担が軽減されたり、初期費用が抑えられたりするメリットがあります。

例えば、居抜きオフィスは、前の入居者が使用していた内装や設備をそのまま引き継ぐことができるため、内装工事費を大幅に節約できます。また、サービスオフィスやコワーキングスペースでは、敷金が不要だったり、月額料金に敷金相当額が含まれていたりするケースがあります。こうしたオフィス形態を選択することで、初期費用の負担を抑えつつ、オフィス移転を実現することが可能になるのです。

ただし、オフィス形態の選択に当たっては、自社のニーズや予算に合ったものを選ぶことが重要です。例えば、機密性の高い業務を行う企業では、セキュリティ面で不安のあるコワーキングスペースは適さないかもしれません。また、サービスオフィスでは、スペースの拡張性に制限がある場合もあります。自社の事業特性や成長戦略を踏まえ、最適なオフィス形態を選択することが求められます。

また、オフィス移転に伴う費用をどう捻出するかは、経営判断の問題でもあります。単に初期費用を抑えるだけでなく、中長期的な投資対効果を見極めることが重要です。例えば、オフィス移転によって、優秀な人材の確保や生産性の向上、イノベーションの創出などが期待できるのであれば、ある程度の初期投資も許容できるでしょう。

逆に、オフィス移転の効果が限定的と見込まれる場合は、初期費用を最小限に抑えることが賢明です。その際、先述のようなオフィス形態の選択肢を活用することで、財務リスクを抑えつつ、オフィス移転のメリットを享受することが可能になります。

オフィス移転は、単なるコストではなく、企業の成長戦略を支える重要な投資と捉えるべきです。しかし、その一方で、財務リスク、特に敷金に関するリスクには十分な注意が必要です。画一的な一般賃貸オフィスにこだわることなく、居抜きオフィスやサービスオフィス、コワーキングスペースなど、多様なオフィス形態の選択肢を検討することが有効でしょう。

資金繰りや財務への影響を考慮するための注意点

資金繰りや財務への影響を考慮するための注意点

敷金が大きな負担になり、財務リスクとしては無視できないほど大きいリスクとはいえますが、オフィス移転における影響を予測可能なものし、コントロールするために必要な注意点についてまとめます。

移転コストの見積もりと予算管理を行う

オフィス移転には、新オフィスの敷金・前払い家賃だけでなく、内装工事費、引っ越し費用など、多額のコストがかかります。これらのコストを適切に見積もり、予算を管理することが重要です。見積もりが甘かったり、予期せぬ出費が発生したりすると、企業の財務状況に大きな影響を与えかねません。

また、移転先のオフィスの賃貸条件や、現在のオフィスの解約条件なども、十分に確認しておく必要があります。

賃貸期間の残存や、原状回復義務など、契約上の問題によって、想定外のコストが発生する可能性があるからです。

自社にとっての移転タイミングの最適化

オフィス移転のタイミングも、財務リスクに大きく関わってきます。

例えば、事業の繁忙期に移転を行うと、業務の中断によって機会損失が発生する可能性があります。また、決算期や株主総会の直前に移転を行うと、財務諸表の作成や監査対応に支障をきたすおそれがあります。

移転のタイミングは、事業の状況や財務スケジュールを考慮して、慎重に検討する必要があります。場合によっては、部署ごとなど移転を段階的に行うことで、リスクを分散させることも有効です。

移転先オフィスの正確な現況把握

移転先オフィスの正確な現況把握も、財務リスクに大きな影響を与えます。

もちろん立地や交通の利便性、周辺の環境など、様々な要素を考慮する必要がありますが、それ以上に重要なのが、オフィスビルの安全性や法令適合性です。

耐震性や防火性に問題があるオフィスに移転してしまうと、将来的に多額の改修コストが発生するおそれがあります。

また、建築基準法や消防法などの法令に適合していないオフィスでは、行政指導を受けたり、営業停止を余儀なくされたりする可能性もあります。

さらに許認可の影響なども考慮する必要があるかもしれません。

移転先の選定に当たっては、移転先オフィスの正確な現況把握を実施し、オフィスの安全性や法令適合性を十分に確認することが重要です。

場合によっては専門家の助言を得ることも検討すべきでしょう。

移転後の運用コストの試算

オフィス移転の財務リスクについては、移転後のコスト試算を行うべきです。

新しいオフィスでは、賃貸料や管理費、光熱費など、運用コストが変化する可能性があります。特に、オフィスの面積が拡大した場合、これらのコストが大幅に増加するおそれがあります。

移転後の運用コストを適切に試算し、中長期的な財務計画に反映させることが重要です。

コスト増加が見込まれる場合は、省エネルギー対策や、オフィス利用の効率化などによって、コストの最適化を図る必要があります。

移転に伴う税務・会計リスクの検討

オフィス移転に伴う税務リスクも、見落としてはいけません。例えば、オフィスの購入や内装工事に伴う消費税の処理、移転費用の損金算入など、税務上の取り扱いには注意が必要です。

オフィス移転に伴う費用は、原則として損金算入が可能です。ただし、その対象となる費用の範囲や時期については、注意が必要です。例えば、内装工事費や引っ越し費用は、支払った事業年度に損金算入できますが、新オフィスの賃貸料は、支払った日の属する事業年度ではなく、その支払に係る期間の属する事業年度に損金算入します。

また、移転費用の中には、資産計上すべきものもあります。例えば、新オフィスの内装工事費のうち、固定資産に該当するものは、資産計上し、耐用年数に応じて減価償却することになります。移転費用の適正な処理を行わないと、税務上の問題に発展する可能性があります。

オフィスを購入する場合は、不動産取得税と登録免許税が課税されます。不動産取得税は、取得価格に一定の税率を乗じて計算しますが、その税率は地方自治体によって異なります。また、宅地評価土地や住宅用家屋を取得した場合は、一定の要件の下で税額が減額される場合があります。

登録免許税は、所有権の移転登記などに際して課税されます。税額は、不動産の種類や価格などによって異なります。これらの税金の処理を誤ると、将来的に追徴課税を受ける恐れがあります。

税務リスクを適切に管理するためには、税理士など専門家の助言を得ることが有効です。移転前に、税務面でのシミュレーションを行い、対策を講じておくことが重要でしょう。

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オフィス移転を「投資」として捉えた場合の投資対効果の考え方

オフィス移転を「投資」として捉えた場合の投資対効果の考え方

オフィス移転は、単なるコストではなく、企業の成長戦略を支える重要な投資です。移転に伴う多額の費用をどう捻出し、どう活用するかは、経営者の重要な意思決定の一つと言えるでしょう。ここでは、オフィス移転における投資対効果の考え方について詳しく解説します。

オフィス移転の投資対効果を評価する際には、多角的な視点が必要です。例えば、以下のような要素を考慮することが重要です。

  • 生産性の向上
  • 人材獲得力の強化
  • ブランドイメージの向上

これらの要素は、財務的なリターンとして定量的に測定することは難しいかもしれません。しかし、中長期的な企業価値の向上につながる重要な要素であり、投資対効果の評価に際して考慮すべきポイントと言えます。

そのため何らかの成果指標を用いて、オフィス移転という投資に見合った効果がでているかは測定すべきです。

投資対効果の検証としては、定量的に試算することも重要です。例えば、以下のような点を試算することが考えられます。

  • 賃料の削減効果:移転先のオフィスの賃料が現在のオフィスより安い場合、その削減効果を試算します。長期的な賃料の削減は、キャッシュフローの改善につながります。
  • 業務効率化による経費削減:新しいオフィス環境によって、業務効率化が図られ、残業代などの経費削減につながるかを試算します。
  • 売上高の増加効果:オフィス移転によって、営業活動の強化や新規事業の展開が可能になる場合、その売上高の増加効果を試算します。
  • 人件費の適正化:オフィス移転に伴う組織再編によって、人件費の適正化が図られる場合、その効果を試算します。

これらの定量的な効果は、オフィス移転の投資判断に際して重要な指標となります。ただし、試算に当たっては、一定の前提条件を置く必要があり、その前提条件の妥当性についても十分に検討することが求められます。

まとめ

オフィス移転は、企業の成長戦略や働き方改革の一環として、大きな意義を持つ取り組みです。しかし、その一方で、財務リスクにも十分な注意を払う必要があります。移転コストの管理、移転タイミングの最適化、移転先の選定、運用コストの試算、税務リスクの検討など、様々な観点から、計画的にオフィス移転を進めることが重要です。

先に書いたように、オフィス移転を考えるときは事業拡大フェーズであることが少なくありません。その場合に資金繰りに関する見積が楽観的すぎたり、投資対効果の検証がなく見込んでいただけの事業拡大が見込めないこともあります。

その場合は単にオフィスの賃料が増えて財務面で企業の体質が悪化してしまう、そんなことも起こりかねません。

もちろん計画が計画通りに行くことは稀かもしれません。だからこそ、ポジティブな側面だけでなく、財務リスクにも目を向け、専門家の助言を得ながら、オフィス移転を成功に導いてください。社員の働きがいや生産性の向上、企業のイメージアップなど、オフィス移転によるメリットを最大限に活かすためにも、ネガティブな要素ともいえる財務リスクへの対応は欠かせません。

計画的なオフィス移転は、企業の持続的な成長と発展につながります。ぜひ、本記事を参考に、自社のオフィス移転を戦略的に進めてください。

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