オフィス移転を成功させるために経営者がイニシアティブをとるべき理由とは?具体的な進め方も解説

事業を運営していると、オフィスに関する問題が起こることがしばしばあります。これは物理的なスペース不足ももちろんですが、事業の成長度・組織状態のフェーズによって起こる問題もあります。

このようなオフィスに関する問題を解決するために、移転という選択は一つの大きな解決手段になりえます。

本記事では、オフィス移転を進めるうえで経営者が果たすべき役割と具体的な進め方についてお伝えいたします。

目次

オフィス移転では経営者が主導権をにぎるべき

オフィス移転は事業上物理的なスペースが必要になった場合、コミュニケーション不足や情報伝達の非効率の解消などの組織力の向上を考える場合など、企業の業績向上のための変革の1つの大きなきっかけになりえます。
特に組織を変えようするときに、「環境」を変えるというのは大きな変革手段になりえます。
組織で働く人の意識や行動を変えようとする場合、経営コンサルタントの大前研一氏が著書『時間とムダの科学』にて語った次の言葉が参考になります。

人間が変わる方法は三つしかない。一つは時間配分を変える、二番目は住む場所を変える、三番目は付き合う人を変える、この三つの方法でしか人間は変わらない。もっとも無意味なのは「決意を新たにする」ことだ。かつて決意して何か変わっただろうか。行動を変えない限り、決意だけでは何も変わらない。

大前研一『時間とムダの科学』

これは個人の場合について書かれた内容ですが、会社で働く人の「環境」も、働く人たちに大きな影響を与えると考えられます。

しかしながら、オフィス移転はコストと時間という重要な経営資源を投入する、重大な意思決定になります。
作業面では新しい物件の探索、内装工事、引っ越しの手配など、多岐にわたる作業が必要となり、通常業務や日常業務に大きな影響を与えかねません。
また、移転に伴う費用は小さくありません。賃料、敷金、仲介手数料、移転費用など、多額の出費が発生します。
このような業務上・金銭上の負担に鑑みると、安易に移転という手段に踏み切ることはできません。

さらに、「環境」を変えるという観点からは、単に場所を変えただけでは、根本的な問題を解決できるとは限りません。

例えば、コミュニケーション不足や業務プロセスの非効率性などが原因の場合、オフィス内部の設計を見直すほかにも、組織内の関係性を変える必要があります。本当にオフィス移転が最適な手段であるのかを経営者として見極める必要があります。

このようにオフィス移転のためには様々な要素に関する複雑な意思決定が必要になります。
そのため、総務部門や管理部門に任せきりにするのではなく、経営者が主導権を握り主体的に進めていく必要があります。

もちろん細かい手続きや雑務を経営者が行う必要はありません。
移転をプロジェクト(短期的な期限と目標があるもの)化し、経営者自らがプロジェクトリーダーとなり指揮をとり、実務をメンバーに任せればいいのです。

経営者としては大まか申し上げれば、下記の3つの点に留意してすすめていきましょう。

  1. 移転プロジェクトに関する重要な方針を決める
  2. プロジェクトチームを組成する
  3. 移転プロジェクト及び移転について振り返りを行う

こちらについて一つずつ説明いたします。

①重要な方針を決める

方針(目的・理由)を明確にし、周知する

オフィス移転を決断する際、まず重要なのは移転の目的と理由を明確にすることです。これは次の観点から必要になります。

  • 目的を明確にすることでどのような点に注意すべきかわかる
  • プロジェクトにどの程度時間をかけるべきかがわかる
  • メンバーの理解や共通認識をとることで円滑な遂行ができる
  • プロジェクト完了後に振り返りや効果検証をすることができる

移転の目的と理由という要素をさらに分解すると、以下の点でになります。

問題点の洗い出し:現在のオフィスが抱える具体的な問題点は何か?

スペース不足、老朽化、立地の悪さなど、物理的環境の問題点を洗い出す。

社員間のコミュニケーション不足、業務プロセスの非効率性など、オフィス環境以外の問題点も特定する。

オフィス移転によって達成したい目的は何か?:問題点の解消をどのようにはかるかという視点

生産性の向上、社員満足度の改善、企業イメージの向上など、移転によって得たい効果を明確にする。

目的に合致した物件選定やオフィスレイアウトの設計が必要となる。

理由(根拠がある移転なのか):なぜオフィス移転が最適の解決手段なのか、移転以外に問題を解決する方法はないか?

オフィス環境の改善(レイアウト変更、設備更新など)で対応できないか検討する。

業務プロセスの見直しやコミュニケーション改善策の実施で問題解決を図れないか考える。

それでも解消できないからこそ、オフィス移転という手段をとるのだということを経営者自身も認識し周知し、納得を得る。

目的を明確にすることで、オフィス移転が最適な選択肢であるかを判断できます。前にも書いたように、解決したい問題・課題の種類によっては移転が最適の手段でない場合もあります。

移転を決定した場合は、綿密な計画を立て、適切な物件選びや社員へのコミュニケーションを行うことが重要です。移転先の選定では、立地、アクセス、賃料、スペース、設備など、目的に合致した条件を満たす物件を探す必要があります。また、社員への丁寧な説明と理解を得ることで、移転に伴うストレスを最小限に抑えることができるでしょう。

できればこの方針については口頭などではなく、ドキュメント・文書にしておくことをおすすめします。

認識齟齬防止と、振り返りのために必要となるためです。

方針から移転先のオフィスのコンセプトを決める

このようなグランドデザイン・方針を決めたあとはプロジェクトメンバーに任せればいい、というわけではありません。

ざっくりでいいですが、方針にあったオフィスとはどのようなオフィスなのかも言語化しておいたほうがいいです。

例えばオフィス移転の方針が下記のようなものだとしましょう。

  1. 部門間でフロアが違い、連携がとれていない
  2. 特に連携が必要な開発部門とカスタマー部門、営業部門とデリバリー部門の距離が遠くコミュニケーションが物理的な問題によってロスしている
  3. カルチャーとしてフラットな組織を目指しているので他部署の社長や他部署の上司と「話しかけにくい」ような組織にはしたくない

このような場合、経営者としてざっくりこのようなオフィスというのを言語化しておくことで、移転後方針がかなえられない、目的が果たせられないということが防げます。

上記の例でいうと、

①フロアがわかれるのはNG、なるべくワンフロアで

→完全なワンフロアにすべきか、同じ階ならいいのか、何をゆずれるのか?

②近くなったとしても例えば簡単に打ち合わせできるスペースなどがないとコミュニケーションが活発にならないのではないか?

③社長や役職者の座席をどう配置するのか、フラットにするのであれば固定席ではなくフリーアドレスのほうがいいのではないか

など解釈によって様々なオフィスが選べることになります。

方針・目的をベースに譲れるところ、譲りたくないところを「オフィス移転のコンセプト」として明確に言語化しておくことをおすすめします。

経営者がオフィスのコンセプトを決めないと、担当者の趣味による単なるお洒落な空間づくりになりかねません。
オフィス移転の方針に基づき、新オフィスでは企業の理念や価値観を反映した「環境」を創り出すことが重要です。企業のアイデンティティを表現し、従業員のモチベーションや生産性に大きな影響を与えるからです。

オフィス移転は、単に物理的な場所を変更するだけでなく、企業文化を再定義する絶好の機会でもあります。移転によって得られるメリットを最大限に活かすためには、明確なオフィスコンセプトを確立することが不可欠です。コンセプトを決定する際には、以下のような要素を考慮する必要があります。

オフィス移転でコンセプトを決める際の重要な要素

コンセプトを決める際に参考となる要素をいくつかあげます。

1. 企業文化とブランドイメージの反映をどこまですべきか?

  • 企業の核となる価値観や理念をオフィス空間に落とし込むべきか?
  • ブランドカラーや象徴的なデザイン要素を取り入れ、企業のアイデンティティやフィロソフィーをオフィスにも反映させるべきか?

2. 多様な働き方への対応をどう考えるか?

  • オープンスペース、個室ブース、集中エリアなど、様々なワークスタイルに対応できる空間を用意すべきか?
  • 従業員のニーズや業務内容に合わせたフレキシブルな環境を整備すべきか?職種によってわけるべきか?

3. コラボレーションの促進の設計をどうすべきか?

  • チームワークとコミュニケーションを促進するための共有スペースを設計すべきか?
  • カフェテリアやラウンジなど、自然な交流が生まれる場を提供し、アイデア交換や情報共有を活性化すべきか?

4. 業務環境の整備をどこまですべきか?

  • 個人作業とチームワークをシームレスに行えるIT環境をどこまで整備するか?ハード・ソフトからの検証
    •  ビデオ会議システム、ワイヤレスディスプレイ、高速Wi-Fiなど、生産性を高める技術を積極的に取り入れるべきか?

5.「働きやすさ」の定義

  • 自然光の取り入れ、緑の導入、快適な空調など、従業員の心身の健康を支える環境をどこまで整えるべきか?
  • リラックススペースやフィットネスルームなど、ストレス解消と健康増進のための施設を設けるべきか?福利厚生の範囲の定義

オフィスコンセプトを確立することで、企業の理念や目指す方向性を空間に反映することができます。それは、従業員のエンゲージメントを高め、企業文化の醸成につながります。また、明確なコンセプトに基づいてデザインされたオフィスは、訪れる人々に強い印象を与え、企業ブランドの構築にも寄与します。

ですが、究極的な目的は企業成長や業績の向上にあるはずで、また予算なや時間というリソースの制限もあります。今後の事業計画、資金繰りの問題もあります。

すべてが理想のオフィスにできればそれに越したことはありません。制約がある中で何を大事にすべきなのか、取捨選択の方針を決めることは経営者にしかできません。

オフィス移転のコンセプトは移転の目的のために、どのような優先順位で取り組むべきかを決めることに他なりません。

②プロジェクトチームの組成

経営者が方針コンセプトを決めたら、実務はプロジェクトチームメンバーに任せるべく、プロジェクトチームを結成しましょう。

各タスクに対して明確な担当者を割り当てることが極めて重要です。これにより、移転計画の具体的な実行がスムーズになり、進捗状況の把握も容易になります。

オフィス移転は、そのオフィスで働くすべての人々に影響を及ぼす重大な変化です。したがって、プロジェクトチームは、単一の部署だけでなく、様々な部門から人材を集めることが望ましいでしょう。部署的に多様性に富んだチームを編成することで、各部署の従業員の意見や要望を幅広く収集し、全員にとってメリットのあるオフィス移転を実現することができます。

新オフィスに求められる部署ごとの要望の明確化

プロジェクトチームが結成されたら、次のステップは、従業員から集めた意見を基に、新オフィスに最も求められている要望はまとめておきましょう。

もちろん、移転の方針やコンセプトを大きく変える必要はありません。繰り返しますが経営判断事項なので経営者に責任と権限があるはずだからです。

一方で、様々な部署や従業員の意見を踏まえずに、特定の人々による要望にこたえる移転計画になると、「独善的な計画」と従業員にはみられてしまい、移転の実務においても混乱を招き、移転後も機能しない恐れがあります。

ともすれば「移転するくらいなら給与を上げてほしい」「移転は無駄である」などという意見も出かねません。また基本的には人間は変化を好まない部分があるので、オフィスが変わるということにネガティブな反応を強化しかねません。

オフィス移転のメリットを最大限に引き出すためには、従業員の理解と納得が不可欠なのです。

そのために少なくともプロジェクトメンバーの意見は最低限吸い上げて対応方針を決めましょう。

確実に実行できる移転計画の立案

プロジェクトチームは、経営者の移転コンセプトをベースにしつつ、従業員の意見も一部反映した新オフィスに求められる要素を基に、実現可能な移転計画を綿密に立てる必要があります。計画立案の際には、以下の点に留意しましょう。

  • スケジュールの設定:現実的な期間内で、各タスクの開始時期と完了期限を明確に定める。
  • 予算の管理:移転に必要な費用を詳細に見積もり、適切な予算配分を行う。
  • リスク管理:移転に伴う潜在的なリスクを洗い出し、対策を講じる。

コミュニケーション計画:移転の進捗状況や変更点を従業員に定期的に伝達する方法を確立する。

ここで重要なのは「確実に実行できる」ということです。

タスクを細分化して疑義が生じない程度に「やること」を明確にすること、そしてスケジュールにはある程度の余裕を持つことが重要です。

特にスケジュールについては想定以上に余裕を持ちましょう。

オフィス移転では、工事の遅延、業者との調整、オーナーとの交渉など、自社の都合だけでは制御できない要因が数多く存在します。これらの要因によって、移転プロセスが予定通りに進まない可能性があります。そのため、スケジュールを詰め込みすぎると、プロジェクトメンバーの通常業務に支障をきたしかねません。

オフィス移転には少なくとも6ヶ月程度の期間が必要とされています。この目安を踏まえ、現オフィスの解約予告日から逆算して、移転計画を綿密に立てることが肝要です。十分な時間的余裕を確保することで、万が一の事態にも柔軟に対応できるでしょう。

③移転プロジェクト及び移転について振り返りを行う

無事にオフィス移転が完了して、終了、というわけにもいきません。

オフィス移転は会社にとっては「全社を巻き込んだ一大イベント」であり、なかなかあることでもありません。会社としてのプロジェクト推進能力を検証するいい機会でもあります。

また、今後も成長を志向する以上、次のオフィス移転の際に、プロジェクトの振り返りは大きく役に立つことでしょう。

担当者ベースの学びではなく、会社として学びになるように以下がポイントとなります。

移転プロジェクトの評価

新しいオフィスでの業務がスタートしたら、移転の成果と課題を振り返ることが重要です。振

移転プロジェクトの評価では、以下の観点から総合的に分析を行います。

  1. スケジュールの遵守:計画通りに移転が完了したか、遅延があった場合はその原因を特定する。
  2. 予算の管理:移転に要した費用が予算内に収まったか、超過した場合はその理由を明らかにする。
  3. 社員の満足度:新オフィスに対する社員の反応や満足度を調査し、改善点を洗い出す。
  4. 業務への影響:移転が業務に与えた影響を評価し、生産性の変化を分析する。

移転プロジェクトの評価を通じて、プロジェクトマネジメントの強みと弱みを明確にし、将来の移転や他のプロジェクトに活かすことが可能です。

新オフィスの評価

新オフィスが当初の目的や期待に沿ったものであるかを評価することも重要です。以下の点を確認しましょう。

  1. オフィスコンセプトの実現度:目指したオフィス環境が実現できているか、改善の余地はないか。
  2. 業務効率の変化:新オフィスが業務効率の向上に寄与しているか、課題はないか。
  3. コミュニケーションの活性化:新オフィスがコミュニケーションの活性化につながっているか。
  4. 社員のエンゲージメント:新オフィスが社員のモチベーションやエンゲージメントに与えた影響はどのようなものか?

新オフィスの評価結果を基に、必要であればさらなる改善を行い、オフィス環境を最適化していくことが重要です。

移転の成果の共有とプロジェクトメンバーの評価

振り返りの結果は、社内で共有し、移転の成果を可視化することが大切です。

課題や改善点についても透明性を持って共有し、協力して解決に取り組む姿勢を示すことが重要です。

特にプロジェクトメンバーについては、通常業務にプラスしてプロジェクトを推進したことはなんらかの評価をするべきです。

業務上の評価にするかは別として、少なくとも組織的な称賛の対象にはしましょう。

移転プロジェクトに関わった社員の努力を称賛し、新オフィスがもたらす価値を全社的に理解してもらうことが、よりよい組織カルチャーを作るのではないでしょうか。

まとめ

以上、オフィス移転を進めるうえで経営者が果たすべき役割と具体的な進め方についてお伝えいたしました。

オフィス移転は、単なる物理的な場所の変更ではなく、企業の成長戦略を支える重要な意思決定です。経営者は、移転の目的と理由を明確にし、新オフィスのコンセプトを確立することで、企業文化の再定義と従業員のエンゲージメント向上を図ることができます。

移転プロジェクトを成功に導くためには、経営者の主導の下、多様な部門から人材を集めたプロジェクトチームを結成し、綿密な計画を立てることが不可欠です。移転後は、プロジェクトと新オフィスの評価を行い、成果と課題を振り返ることで、将来の改善につなげていくことが重要です。

オフィス移転は、企業の成長と発展に大きく寄与する戦略的な取り組みです。経営者の適切なリーダーシップの下、全社一丸となって取り組むことで、その効果を最大限に引き出すことができるでしょう。

職場の環境を「デザインする」ことも経営者の仕事。移転の際には主導権をにぎり、適切なプロジェクト進行を目指しましょう。

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