オフィスの敷金(保証金)徹底解説!必要性から計算方法までわかりやすく解説します
一般的に、賃貸オフィス物件を契約する際には、敷金または保証金(以下、敷金)を預け入れる必要があります。一体いくらくらい必要なのでしょうか。また、敷金は返還されるのでしょうか。
物件を賃貸借する際にかかる「初期費用」の中でも特に高額になる「敷金」。敷金については、正しい知識を持ち、理解をしておかないと、いざ物件を退去しようとした時に追加で料金を請求されたり、敷金の返還を巡ってビルオーナーとトラブルになってしまったりすることもあります。
この記事では「賃貸オフィスの敷金はいくらかかる?」「敷金は返還される?」「敷金に消費税はかかる?」などの疑問から、敷金の必要性や減額できる方法などについて詳しく解説いたします。
賃貸オフィスの敷金(保証金)とは?
敷金(保証金)とは、賃貸借契約をする際に借主が貸主に対して預け入れる金銭のことをいいます。民法では敷金を以下のように定義しています。
いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう
民法第622条(2022年3月現在)
敷金(保証金)を払うタイミングは、賃貸借契約を締結するときが一般的です。初期費用として礼金や仲介手数料などと一緒に支払います。また、基本的に預り金である敷金(保証金)に消費税はかかりません。
賃貸オフィス物件の敷金の相場としては、賃料の6ヶ月から12ヶ月程度となります。ただ、物件の面積や貸主側の会社規模などによって変動しますので、詳しくは後述する【敷金(保証金)の相場はどれくらい?】をご覧ください。
まず、預け入れた敷金が主にどのような用途で使われるのかについて、簡単にご説明いたします。
- 賃料の滞納補填
- 「借主(テナント)」が賃料の支払いを滞納した場合、敷金からその未払い分を差し引いて対応します。これにより「貸主(オーナー)」は賃料の未納リスクを減らせます。
- 原状回復工事費用の補填
- 万が一、「借主(テナント)」が退去時の原状回復工事の費用を支払うことができない場合、「貸主(オーナー)」は敷金を使ってその費用を補填します。これにより、オフィスを次の借主に貸し出せる状態に戻すための費用が確保されます。
- 契約違反の損害補填
- 「借主(テナント)」が賃貸借契約の内容に違反した際、その損害を補うために敷金が使用されることがあります。これにより「貸主(オーナー)」は契約違反による損失を最小限に抑えられます。
敷金と保証金の違いは?
「敷金」と「保証金」と2つの呼び方がされますが、この2種類の違いについて簡単にご説明いたします。
現在の慣習として一般的に違いはありません。強いて挙げるなら以下の通りです。
- 敷金:「賃料の〇ヶ月分」とされることが多く、賃料が改訂されると敷金の額も変動する
- 保証金:「坪単価」や「㎡単価」で決めることが多く、保証金の額は改訂されない
保証金の場合も、敷金と同様に賃貸借契約を締結するときが一般的で、消費税は発生しません。
敷金(保証金)の相場はどれくらい?
敷金の相場についてですが、これは物件によって大きく異なります。
敷金額は「物件の種類(住宅かオフィスか)」や、「オフィスの面積」「オーナーの意向や会社規模」などによって変動します。以下の情報は、あくまで参考程度にご覧ください。
賃貸物件の種類 | 敷金(保証金) |
---|---|
住宅 | 1 〜 2ヶ月 |
オフィス | 6 〜 12ヶ月 |
面積 | 敷金(保証金) |
---|---|
10坪 〜 40坪 | 3 〜 6ヶ月 |
50坪 〜 100坪以上 | 6 〜 12ヶ月 |
貸主(オーナー) | 敷金(保証金) |
---|---|
個人オーナー | 3 〜 6ヶ月 |
大手デベロッパー | 6 〜 12ヶ月 |
上記の通り、オフィスの敷金は一般的に住宅よりも高く設定されていることが多いです。また、面積が大きくなったり、ビルの貸主が大手デベロッパーであったりすると、より高く設定される傾向にあります。
オフィスの敷金(保証金)はなぜ住宅より高い?
住宅の敷金が通常1~2ヶ月分であるのに対し、オフィスの敷金は最大で12ヶ月分程度に設定されている物件が多くあります。この差はなぜ生じるのでしょうか?主な理由は2つあります。どちらも、借主が家賃を支払わないリスクに備えるためのものです。
まず1つ目の理由は、退去時にかかる原状回復費用の違いです。
住宅の場合、賃料が支払われなくなったとしても、貸主の負担は家具の撤去や室内のクリーニングなど比較的軽微なもので済むことが多いです。しかし、オフィスでは状況が異なり、次のテナントが入居する前に、内装の解体や照明・空調の移設など、オフィスを元の状態に戻すための原状回復工事が必要になります。
これらの工事費用は、入居時にどれだけの改装が行われたかによって大きく変動し、貸主はこの費用を敷金から賄わなければならないため、高額な敷金が求められるのです。
2つ目の理由は、貸主が背負う賃料滞納リスクの大きさです。
典型的な賃貸借契約では、テナントが2ヶ月以上の賃料を滞納すると、貸主は契約を解約する権利を持つとされているものが多いです。この期間が定められやすい理由は、統計的に「2ヶ月以上滞納したテナントは、その後の支払いが難しくなることが多い」とされているためです。
加えて、テナントが賃料を滞納したまま退去する場合、原状回復費用を支払う余裕がない状況であることが多く、さらに次のオフィスを契約する余裕もないため、結果オフィスに居座ってしまい、賃料滞納が3~6ヶ月続くこともあります。結果、貸主は最大で15ヶ月分の損失リスクを背負うことになり、これを補うために高額な敷金が必要となります。
オフィスの敷金は、これらのリスクをカバーするために高額に設定されていますが、交渉によって減額が可能な場合や、保証会社を利用して敷金を抑える方法もあります。保証会社の利用については以下の記事をご確認ください。
敷金(保証金)は返還される?
民法では次のいずれかの場合に敷金返還債務が発生すると明記されています。
一 賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたとき。
民法第622条(2022年3月現在)
二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。
つまり、一に記載があるように、基本的に敷金(保証金)が返ってくるタイミングは原状回復などがすべて終わった状態で貸室を返還した後になります。
ですが、この規定は任意規定とされているので、個別の特約条項により返還時期が設定されている場合には、特約条項が有効となります。
注意したいポイントは先ほどにも挙げた通り「賃貸物の返還を受けたとき」=「オフィスから引っ越したとき」ではないという点です。オフィスの明け渡し後に、原状回復工事が終了し、水道光熱費などの経費精算が終わった時点が「敷金(保証金)返還のタイミング」となります。
よって、新オフィスの工事費用に敷金返還分を直接あてるのは時期的に難しいという話になります。
敷金(保証金)は全額返ってくるの?
基本的には、家賃滞納などの債務がなければ全額返還されます。
敷金が全額返ってくるかどうかは、大きく以下の要因に左右されます。
- 物件の状態: テナントが物件を大切に使い、損傷や汚れを最小限に抑えた場合、敷金は全額返ってくることがあります。一般的には、壁や床の傷、設備の故障、清掃不備などが差し引かれることが多いです。
- 契約条件: 契約書に記載された条件に従っているかどうかも重要です。契約期間の遵守や、退去時の通知期間に関するルールを守ることが求められます。
- 不動産管理会社の判断: 最終的な判断は、不動産管理会社や貸主に委ねられます。彼らは物件の状態をチェックし、敷金の返金額を決定します。
差し引かれる可能性がある費用とは?
一方で、テナントが物件を適切に扱っていても、敷金から一部が差し引かれることがあります。これは、定期的なクリーニング料や設備のメンテナンス費用など、契約書に明記された費用が敷金から差し引かれるケースです。通常、これらの費用はテナントによって負担されます。
敷金の返還手続きは契約終了時に行われます。テナントは物件の清掃や原状回復作業を完了し、不動産管理会社に退去の意向を通知します。その後、物件のチェックが行われ、敷金の差し引かれた分と、残りの敷金がテナントに返還されます。
最終的に、敷金の全額返還を受けるか、一部が差し引かれるかは、テナント自身の契約遵守と物件の状態にかかっています。契約書をよく理解し、物件を適切に管理することが、敷金の返還額を最大化するためのカギです。
差し引かれる可能性がある費用:①償却
住宅の場合、経年劣化や通常損耗の原状回復費用は貸主が負担することが多く「敷金が全額返ってきた!」というケースも多少見受けられます。
しかし、賃貸オフィスの場合は住宅とは異なり「償却」がある物件が数多くあります。
敷金(保証金)から解約清算時(退去時)に無条件に差し引かれる費用のこと
※関西では”敷引き”と呼ばれることもある
最近では大型ビルを中心に償却費を必要としない物件も増えてきましたが、中小ビルではまだまだ償却費がある物件の方が多い状態です。償却費の相場は、保証金の10~20%程度、もしくは敷金の賃料の1ヶ月~2ヶ月分程度です。
※償却額については、契約書に特約事項として記載されていますので、必ず確認しましょう。
差し引かれる可能性がある費用:②原状回復費用
償却の他に、原状回復費用が差し引かれる場合もあります。
原状回復工事については、工事業者が指定されているパターンと、指定されていない(退去するテナントが業者を見つけて工事を依頼する)パターンがあるので注意しましょう。場合によっては、交渉に応じてくれる貸主様もいらっしゃいます。
原状回復費用は、坪数とオフィスビルのグレードで相場の金額が変わってきます。目安は以下の通りです。
確実に返還されるためには?
確実に保証金を返還してもらうためには貸主の与信をチェックしておく必要もあります。通常は貸主が借主の与信を調査することが一般的ですが、最近は貸主といっても財務状況が厳しい場合も少なくありません。そのため、高額な保証金を預ける借主としても、貸主の与信は十分に調査しておく必要があります。
保証金は決して少ない額ではありません。大切なお金を預けるのですから、いくら不動産を借りる側とはいえ、どのような人から借りようとしているのかをしっかりとチェックすることは、保証金を適正に返還してもらうために必要といえるでしょう。
与信を確かめる手段としては、法人貸主であれば帝国データなどの与信管理を参照する方法があります。個人貸主であったとしても謄本を確認するなど、仲介業者に確認することをおすすめします。
最近のオフィスの敷金は無料になる事もある!
最近のオフィス敷金金額のトレンドについてもご紹介いたします。近年、オフィス敷金は最大で0円で入居可能な物件が増えてきています。これにはいくつかの理由が影響しています。
- 家賃保証会社の出現: オフィス不動産市場において、家賃保証会社が登場し、テナントの家賃未払いリスクを軽減するためのサービスを提供しています。これにより、貸主は敷金を徴収する必要が少なくなり、入居者にとっては敷金不要の物件が増えました。
- セットアップオフィスの普及: ベンチャー企業やスタートアップ企業向けに、セットアップオフィスが増加しています。セットアップオフィスは、家賃に含まれているだけでなく、会議室や共用エリア、必要な家具・備品が提供されるスペースです。資産を持たない賃貸オフィスを借りる際、原状回復範囲が狭いため、家賃保証会社の利用によって敷金の減額が可能になりました。
このトレンドは、特にベンチャー企業やスモールビジネスにとって魅力的で、面積が100坪以下(50名以下)の企業に多く適用されています。従って、入居者にとって資金の圧迫が軽減され、オフィス選びがより柔軟になっています。
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まとめ
物件を借りるとき、初期費用の1つとして必ずついてくるのが敷金(保証金)です。契約時には必ず詳細を確認する必要があります。
返還時期、返還額(特に原状回復工事費用に関するトラブルは多いのでご注意ください)についても、契約書の特約事項等あらかじめ確認しておくことが必要です。
このように、オフィス移転の際に敷金・保証金の内容がどのようになっているのかを確認することは非常に大切です。貸主がどの程度信用のおける会社あるいは個人で、保証金としていくら請求されるのか、保証金の返還条件が契約書にはどのように記載されているのかを十分に確認してから契約を結ぶことが大切です。
良い物件が見つかったり、転居の期日が迫っていたりするとついつい先々のことはあまりに気にせず契約してしまいたくなるものですが、できるだけ焦らずに退去時のことも考えながら交渉を進めることをお勧めします。オフィス移転のプロである仲介業者に依頼することで煩雑で専門的な分野の負担を大きく減らすことも選択肢として考えておきましょう。