ビル運営において、「空室」は経営に大きな影響を及ぼす深刻な課題です。空室期間中も保守・清掃・管理などの維持費用は発生する一方で、賃料収入は得られず、オーナーの財務負担は増すばかり。さらに空室が続くことで、ビル全体の資産価値や入居者からの印象にも影響が出る可能性があります。
こうした課題に対し、近年注目されているのが「セットアップオフィス」という運用手法です。テナントニーズの変化に応じて、内装付きオフィスへの転換が空室対策として高い効果を発揮しており、特に中小規模のビルを中心に導入が進んでいます。本記事では、セットアップオフィスとは何か、その導入メリットや実際のセットアップオフィス化事例などについて、オフィスのプロである私たちの視点から分かりやすく解説します。
- 建設費が高騰しているため、土地を取得した際のシミュレーションと収支が合わない
- 空室が長引いていて、収益が安定しない
- 空きビルを購入したものの、どのように運用すれば収益が上がるのか分からない
セットアップオフィスとは?

セットアップオフィスとは、ビルオーナー(貸主)があらかじめオフィスの内装造作や家具(什器)などを備え付けた状態で貸し出すオフィス形態のことを指します。
通常の賃貸オフィスでは、入居テナントがレイアウトプランニングや内装工事に時間と費用をかける必要がありますが、セットアップオフィスの場合はその初期工事を貸主側で負担するため、借主は工事期間やコストを大幅に削減することができます。その結果、資金や時間に限りのあるベンチャー企業や中小企業を中心に非常に人気が高まっている形態です。
近年、ベンチャー企業や中小企業を中心に、「すぐに使える」「手間がかからない」オフィスを求めるニーズが高まっており、セットアップオフィスは非常に高い注目を集めています。
なぜ、オーナーにとってセットアップオフィスがいいのか?

セットアップオフィスへの転用は、単なる空室対策にとどまらず、収益改善にも直結する効果的な施策です。ここでは代表的な3つのメリットをご紹介します。
空室期間の短縮によって稼働率が向上する
内装付きのオフィスは、入居テナントにとって非常に魅力的な選択肢として認知を広げつつあり、内見から成約までのスピードが早く、空室リスクを大幅に軽減できる点が特徴です。つまり、テナント募集から契約・入居開始までのリードタイムが大幅に短縮されることによる空室期間の短縮が見込めます。
入居企業はスピーディーに業務を開始でき、オーナー側は空室期間を減らして早期に賃料収入を得ることが可能です。結果として稼働率が上がり、空室リスクの低減に直結します。
相場よりも高めの賃料設定が可能
内装や家具・什器付きなど入居テナントにとって「付加価値」を提供できることによって、相場よりも高めの賃料設定が可能な点も特徴です。初期費用負担が軽いため、入居テナントは多少割高な賃料でも受け入れやすく、オーナーはその分収益性を高めることができます。
実際、セットアップオフィスへの投資回収の要素として「高い賃料収入」が挙げられており、付加価値に見合うプレミアム賃料で貸し出せれば長期的な収益向上につながります。
例えば、通常オフィスの仕様なら坪単価2万円前後が相場のエリアでも、セットアップオフィスに改装された物件であれば坪単価2.5〜3万円を超える設定も現実的です。
ただし内装費用を上乗せするからといって周辺相場と大きくかけ離れた賃料設定にすると、かえってテナント付けが難航し長期空室を招くリスクもあります。適切な市場分析に基づき、無理のない範囲で付加価値分を賃料に反映させることが重要です。
設備投資分の回収スピードが早い
空室期間の短縮と賃料単価アップの相乗効果により、オーナーが負担した内装工事費用を短期間で回収できる可能性があります。ROI(投下資本利益率)の観点でも、テナントの早期獲得・高賃料収入・空室期間圧縮といった要因が投資リターンを押し上げることが指摘されています。
要は、内装投資に見合う収益を短期間で生み出せるため、結果的に物件全体の利回り向上に寄与するのです。
以上のように、セットアップオフィス化は空室対策として即効性があるだけでなく、収益拡大と投資効率の改善にも直結します。オーナーの前向きな設備投資がテナントニーズに応えることで、双方にメリットを生み出すWIN-WINのモデルと言えるでしょう。
初期投資費用の捻出が難しいときは?

メリットの多いセットアップオフィス化施策ですが、オーナーにとって悩ましいのが内装工事にかかる初期費用です。オフィスのグレードにもよりますが、内装デザインや造作工事、新規家具調達まで行うと坪あたり数十万円規模の投資が必要になります。
資金的な余裕がない個人オーナーや小規模ビルでは、この初期投資ハードルが導入を妨げる要因となりがちです。また、「内装を豪華に整えたのにテナントが見つからなかったらどうしよう」というリスクへの不安もあるでしょう。
オフィスビルのサブリース事業「TRANS」のご紹介
こうした課題を解決する手段の一つとして、弊社はオフィスビルのサブリース事業「TRANS-(トランス)」サービスを提供しています。
TRANS-/トランス
空室に悩むオフィスビルに「初期費用が安く、契約が柔軟で、そこそこオシャレ」な付加価値を加え、当社が借り上げて転貸する新しいカタチのサブリース事業です。
セットアップ化に躊躇するオーナーと、高額な賃料で入居を諦めていた企業をマッチングし、双方にとって最適な空間を実現。働き方の変化に対応した、新時代のオフィス運用モデルを実現します。

ビル1棟またはフロア単位で弊社が市場価格で借り上げたうえで、オーナーに代わって内装費用を負担し、セットアップ化を実施。完成後は弊社がテナントの誘致から契約まで一貫して行います。弊社が貸室の賃料をお支払いするため、空室期間を最小限に抑え、安定した賃料収入が見込めるスキームとしてご提供しています。
オーナー様は内装費用を直接負担することなく、空室をプロの手によって魅力的なオフィス空間へと再生可能です。サブリース契約により、一定のマスターリース賃料が保証されるケースも多く、リスクを抑えつつ安定した収益確保が図れる点も大きな魅力です。
- オーナー様に初期投資の負担がない
- 安定した賃料収入が確保される
- 物件価値の向上、出口戦略にも強い
セットアップオフィス化の事例(TRANS-SHIBUYA)
2023年に開設された「TRANS-SHIBUYA」では、セットアップ済の44坪フロアをベンチャー企業向けに展開し、坪単価2万円台で高い稼働率を実現しました。


本プロジェクトでは、渋谷駅新南口近くに位置する「大崎ビル」の4フロアを弊社が借り上げ、会議室や受付スペースの新設、一部オフィス家具のリース提供などを施したセットアップオフィスとして提供しました。
渋谷エリアはベンチャー企業が多く集まる一方で、内装工事に多額の初期投資をかけたくない企業が大半です。しかし、セットアップオフィスはニーズが高いにもかかわらず、供給物件が少なく、賃料も高水準であることが課題でした。こうした市場背景を踏まえ、弊社は同エリアでのTRANS-事業をスタートさせました。
一般的に、渋谷のセットアップオフィスの賃料相場は坪単価3.5万円を超えるケースも珍しくありませんが、「TRANS-SHIBUYA」では坪単価2.5万円という戦略的な価格設定を採用。これにより、コストに敏感なベンチャー企業でも入居しやすい条件を実現し、募集開始からわずか4カ月で全4フロアが成約に至りました。
このように、TRANS-事業を活用することで、初期費用の捻出が難しいオーナー様でも、空室解消と利回り向上の両立が可能になります。内装付きオフィスの運用における弊社のノウハウを活かし、物件価値の向上と資産収益性の改善を同時に図れるスキームです。
オフィス運用におけるセットアップオフィスの可能性

コロナ禍を経て企業のオフィス戦略は大きく転換しつつあります。リモートワークの普及や経営環境の変化により、以前にも増して省コストで柔軟なオフィス形態を求めるニーズが高まっています。その潮流の中で注目を集めたのがセットアップオフィスであり、現在、多くのデベロッパーや不動産会社がこの市場に参入しています。
首都圏・大都市圏では中小規模ビルのみならず、大規模オフィスビルの一部フロアをセットアップオフィス化する事例も増えており、内装付き物件の供給は拡大傾向にあります。もはやセットアップオフィスは一部の特殊な試みではなく、新しいオフィス運用の選択肢として広く認知され始めているのです。
また、働き方のハイブリッド化が進む現在、企業がオフィスに求めるものも「広さより質」へとシフトしています。全社員が毎日出社する前提で巨大なスペースを構える時代は終わり、必要なときに集まれる快適で魅力的な空間を確保することが重視されるようになりました。
実際、優秀な人材の確保・定着のために企業が重視するオフィス要素として、「駅近で利便性が高い立地」「企業ブランドに見合うビルグレード」「社員のモチベーションを高める洗練された内装設備」が挙げられています。裏を返せば、オーナー側から見るとデザイン性が高く使い勝手の良いオフィス空間を提供できる物件ほどテナントから選ばれやすい時代になっているということです。
特にこれからのオフィスは、以下のようなニーズが加速していくと考えられます。
- 初期費用ゼロで入居したい
- 移転の手間を最小限にしたい
- 働き方に柔軟なオフィスを選びたい
オフィス市況において競合物件が増える中、自社ビルの競争力を高め空室リスクを低減する施策として、セットアップオフィスは有力な選択肢であり続けるでしょう。
まとめ:「セットアップ化」思考で収益の最大化を目指す
空室に悩むビルオーナーにとって、セットアップオフィスへの転換は稼働率改善と利回り向上の両方を実現し得る有効策です。内装付きオフィスという付加価値を提供することで、テナント満足度を高めつつオーナー側の収益チャンスも拡大します。初期費用の問題があってもTRANS事業のようなスキームを活用することでハードルを下げられるため、規模の小さい物件でも導入は十分可能です。
現在のオフィス市場の変化を踏まえ、ぜひこの機会に所有ビルの運用見直しを検討してみてください。空室がちなフロアも発想を転換することで新たな収益源に変えられるかもしれません。「空いているビルがある」「建てたはいいが運用に悩んでいる」といったお悩みを抱えるビルオーナー様は、ぜひ一度、セットアップ運用をご検討ください。